実録!SIerがネットゲーム事業に参入できない理由
プロジェクト計画レビュー
部長「NGSは、今年度の重点目標『高利益率ビジネスへの参入』を達成するために立ち上げる非常に重要なプロジェクトです。本部長から直々のご指示を頂き、開発チームのメンバーを集めました。」
PMO事務局「PMOとしてもプロジェクトの成功に向けて最大限貢献したいと考えています。」
部長「それは心強い。ありがとうございます。」
課長「それでは、早速ですが、NGS開発プロジェクトのプロジェクト計画レビューをお願いします。」
PMO事務局「プロジェクトのマスタスケジュールに計画が不明確な箇所が散見されます。βテストの終了日が11月末頃となっていますが、試験の終了日は日単位で明確にして下さい。」
課長「オンラインで実施するβテストですから、多少の変動は想定しておかないと…」
PMO事務局「クリティカルパスが明確になっていない等、PMの管理能力の不足も認められました。従いまして、今後、NGS開発プロジェクトはPMOの重点監視対象プロジェクトとなります。」
部長「承知しました。PMOの皆様にお手数を掛けてしまい、すみません。」
課長「……」
開発フェーズ その1
社員「新しい隠しアイテムのアイデアが浮かびました!」
課長「へぇ、なかなか面白いアイテムじゃないか。早速、取り込もう。」
~ 1週間後 ~
PMO事務局「そのような隠しアイテムは要件定義書に記載されていません。アイテムを追加する場合は、仕様変更書を作成してPMOの承認を得て下さい。」
課長・社員「……」
開発フェーズ その2
本部長「インドにいい開発会社があるんだよ。NGS開発プロジェクトで使ってみてよ。」
PMO事務局「賛成です。PMOとしても原価低減につながる施策は積極的に進めるべきだと考えます。」
部長「承知しました。検討します。」
~ 翌日 ~
部長「インドに本部長お勧めのいい会社があるらしいんだよ。一部でいいからさ、使ってみてよ。」
課長「え!? 今から製造委託先を変更するんですか。それも突然インドとか…。」
~ 翌日 ~
課長「部長がインドの会社を使えってよ。それも本部長からの指示みたいでさぁ…。」
社員「……」
次世代型オンラインRPG オンラインβテストの開始延期について
先日のニュースリリースでお知らせしました次世代型オンラインRPGの「オンラインβテスト」につきまして、テスト開始時期を3ヶ月延期させていただくことを決定いたしましたので、お知らせいたします。 延期の理由といたしましては、ユーザの皆様に本ゲームの世界観をより一層お楽しみいただけるよう、地図機能・ランキング一覧機能の強化を行う必要が生じたためです。 楽しみにお待ちいただいていた皆様には深くお詫び申し上げるとともに、一刻も早く「オンラインβテスト」を開始できるように努めてまいります。
~ 3ヶ月後 ~
オンラインβテスト その1
社員「予想以上のβテスト参加者がログインしており、サーバのレスポンスが悪化しています!」
課長「おぉ、そりゃ嬉しい悲鳴だね。オンラインβテストの3ヶ月延期で逆に世間の話題をさらったからね。よし、ボトルネックを調査して、チューニングに取り掛かろう。」
~ 翌日 ~
品質管理担当「昨日NGSで発生した性能問題の再発防止策を資料にまとめて報告して下さい。報告期限は今週中です。」
課長・社員「……」
オンラインβテスト その2
社員「三日三晩、徹夜してチューニングを行いましたが、これ以上は無理です。サーバの増設が必要です!」
課長「分かった。サーバの見積りを取って、追加投資の稟議を回さないとね。その前に稟議の添付資料を作成しないと。追加投資は本部長の決裁か…。数十万円なんだけどなぁ…。」
~ 1週間後 ~
決裁審査担当「追加投資の稟議資料を確認しました。追加投資の費用対効果が金額で明記されていないため、本決裁は差し戻します。」
課長・社員「……」
サービス開始判断レビュー
課長「先週、NGSのオンラインβテストが無事に完了し、発生していた性能問題も何とか解消できました。βテスト参加者からの評判もまずまずです。βテスト開始時に計画した通り、来月からサービスを開始するご判断をお願いします。」
PMO事務局「有識者レビューの結果は如何でしたか?」
社内“有識者”「設計書・試験報告書の更新が完了していない箇所が有り、設計書・試験報告書の全件レビューを実施できませんでした。」
課長「ゲームバランスを調整しながらβテストを進めてきましたから…」
PMO事務局「本会議までにプロジェクト側で作成するようにPMOが規定している必要書類も揃っていません。ドキュメントが完成しないままサービスを開始しようとするなど、問題プロジェクトの典型です。PMOとしては認められません。」
社員「先日ご指摘を頂いた『ログイン手順書』のことでしょうか?」
PMO事務局「そうです。『アプリケーション起動手順書』も忘れないようにお願いします。」
社員「ブラウザゲームなんですが…」
PMO事務局「テスト証跡として必要な画面キャプチャー資料も提出されていません。残念ですが、このような状況ではNGSのサービス開始を許可できません。」
課長・社員「……」
次世代型オンラインRPG 商用サービス開始延期について
先日のニュースリリースでお知らせしました次世代型オンラインRPGの商用サービス開始につきまして、サービス開始時期をさらに3ヶ月延期させていただくことを決定いたしましたので、お知らせいたします。 延期の理由といたしましては、オンラインβテストの中で確認された高負荷時にレスポンスが悪化する問題への対応に想定以上の時間が掛かることが判明したためです。 楽しみにお待ちいただいていた皆様には深くお詫び申し上げるとともに、一刻も早く商用サービスを開始できるように努めてまいります。
まとめ
スピード感の圧倒的な欠如と、社内手続きの煩雑さによる膨大なオーバーヘッド、システム開発やビジネスの現場から遠く離れた意思決定機構、このあたりが「SIer」と呼ばれる企業がネットゲーム事業に参入できない大きな理由であると筆者は考えています。
ネットゲーム事業に参入できないこと自体は、それ程大きな問題ではありません。SIerは本業のSIビジネスで収益を上げれば良いからです。しかしながら、SIerがいつの間にか内部に抱え込んだこれらの体質は、本業のSIビジネスにおいても競争力や収益性の低下を招いているように見受けられます。皆様の周りでは如何でしょうか?
SIerの社員は「管理」ばかりやっていて、大多数が自分達でシステムを作れない(内製できない)という点もスピード感の欠如につながっていると思います。この話はまた別の機会に。
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参考になるサイト
Inclusion Japan – 大企業でのイノベーションプロジェクトが失敗する3つの理由
AFTER★SE7EN – SIerが技術力を求めているという誤解(Internet Archive)
Tech総研 – なぜ、グリーはSIer出身者を続々と採用するのか?
Another Shinjuku Confidential – PMOという言葉にほんのり雇用対策の匂いが漂う件